BRICs、デカップリング理論の今🌍
私が、デカップリングという言葉を聞いたのは、2000年代だったと思います。2001年から2005年ぐらいでしょうか?当時、先進国が景気後退に陥る一方で、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)といった新興国が、内需拡大と先進国への輸出増大により経済成長し、さらなら拡大が期待されていました。
この現象から、「先進国の景気動向に左右されず、新興国が独自の成長を遂げる」というデカップリング論が浮上。世界経済の牽引役が多極化し、より安定するという期待を生みました。
ふと、現代はこの考えをどのように扱っているのか気になり、調べてみました。
2つのデカップリング理論
私は経済のデカップリング理論しか知らなかったのですが、現在はもう一つ、環境問題におけるデカップリング理論というものもあるそうです。最初にこれについても触れておきます。
1. 環境分野におけるデカップリング:未だ道半ばの挑戦
経済学のデカップリングとは別に、環境分野におけるデカップリングは1990年代から議論されてきました。これは、有限な地球資源と環境容量の中で経済活動を続けるため、従来の「成長=負荷増大」という関係を断ち切る(デカップリング)ことを目的としています。
デカップリングの現状:相対的から絶対的へ
デカップリングには二つの段階があります。
多くの先進国では、すでに相対的デカップリングが達成されています。しかし、これは経済規模が大きくなるにつれて、環境負荷がわずかに増えている状態です。本当に地球を持続可能にするには、環境負荷をゼロ、さらにはマイナスにしなければなりません。つまり、目指すべきは絶対的デカップリングなのです。
課題:途上国とのギャップ
先進国がデカップリングの議論を進める一方で、途上国では全く異なる課題に直面しています。
先進国は、技術革新や政策(炭素税など)を通じて、デカップリングを推進しています。しかし、生産拠点を海外に移転することで、自国の環境負荷を「見かけ上」減らしているという問題も指摘されています。
途上国では、貧困削減と経済成長が最優先課題です。経済が発展すれば、エネルギー消費や資源利用が増えるのは避けられません。先進国が過去に多くの環境負荷を排出して経済成長を遂げたにもかかわらず、途上国に厳しい環境規制を求めることへの不公平感も存在します。
この溝を埋めるには、先進国が技術や資金を提供し、途上国が持続可能な開発モデルを模索する、新たな協力関係の構築が不可欠です。
環境問題におけるデカップリングについても、先進国と途上国という構図があることが分かりました。
2. 経済学におけるデカップリング:揺らいだ理論
改めて、経済におけるデカップリングを考えましょう。
デカップリングという言葉が最初に広く知られるようになったのは、2000年代の経済学の文脈でした。当時、米国などの先進国が景気後退に陥る一方で、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)といった新興国が内需拡大とグローバルなサプライチェーンでの役割増大により、高い経済成長を維持していました。
この現象から、「先進国の景気動向に左右されず、新興国が独自の成長を遂げる」というデカップリング論が浮上。世界経済の牽引役が多極化し、より安定するという期待を生みました。
ロシアのインデックスファンドの思い出
個人的な話になりますが、私も当時はロシアが、西側諸国や日本に融和的な姿勢を見せており、経済成長への期待もあって、ロシアのインデックスファンドを少し購入した時期がありました。しかし、結果は含み損を解消できずに、損切りとして、全て売却することになりましたね。
個人的なロシアの経済成長への期待だとか、特定の時期における経済理論だとか、そういったものは投資にはあまり役に立たないなと実感した次第です。
インデックスファンドで見るデカップリングの経緯
この相関関係の変化を、MSCIワールド・インデックス(先進国株式)とMSCIエマージング・マーケット・インデックス(新興国株式)の相関係数で見てみましょう。
| 期間 | 相関係数の傾向 | 主な要因と背景 |
|---|---|---|
| 1990-1999年 | 低い(〜0.5以下) | グローバル化がまだ初期段階であり、新興国市場が先進国市場から独立して動く傾向が強かった。 |
| 2000-2009年 | 上昇傾向(0.5→0.8) | 中国のWTO加盟やBRICs経済圏の台頭により、両市場の経済的な結びつきが強まった。後半には「デカップリング」理論が一時的に注目されるも、金融危機で一変。 |
| 2010-2019年 | 高い(〜0.8以上) | 2008年のリーマンショック以降、世界の金融市場が密接に連動し、投資家のリスクセンチメントがグローバルに共有されたため、相関係数が高止まりした。 |
| 2020年以降 | 高い(〜0.8以上) | 新型コロナウイルスのパンデミックや地政学的な緊張が、世界中の市場に同様の影響を及ぼし、引き続き高い相関が維持されている。 |
結論としては現在はカップリング状態
この表から明らかなように、2008年のリーマンショックを境に、先進国と新興国の経済は「デカップリング」ではなく、むしろ密接に結びついた「カップリング」状態にあると言えます。世界の金融市場やサプライチェーンが高度に発達した結果、特定の地域で起きた経済的ショックが瞬時に全世界に波及するようになりました。投資家のリスク回避行動もグローバルに連動するため、市場間の相関は高止まりしています。
2000年代の新興国の経済成長は、先進国の生産拠点としての役割や、資源(特に石油、天然ガス、鉱物など)の生産に大きく依存していました。これは、必ずしも自国の技術革新や内需の成熟によるものではなく、グローバルな分業体制の中で発展してきた側面が強いでしょう。
例えば、中国は世界の工場として、ブラジルやロシアは資源輸出国として、それぞれの役割を担うことで経済成長を遂げました。このため、先進国の需要が落ち込むと、新興国経済も直接的な打撃を受ける構造になっており、リーマンショック後の「カップリング」状態につながる大きな要因となりました。
政治的な対立からの影響は?
近年、米中対立に代表される地政学的な緊張が、新たなデカップリングの動きを生み出しています。これは、経済的な効率性よりも経済安全保障を重視する動きです。例えば、重要なサプライチェーンを特定の国に依存しないよう、生産拠点を国内に戻したり(リショアリング)、友好国に移したり(フレンドショアリング)する動きが見られます。
ロシアもこの議論において重要な存在です。ロシアは世界有数の天然ガス輸出国であり、特にヨーロッパや日本はこれまでロシアからの輸入に大きく依存していました。ウクライナ侵攻後、多くの西側諸国がロシアへの経済制裁を課しました。これは、ロシアをグローバルな経済・金融システムから意図的に「デカップリング」させる試みでした。これにより、ヨーロッパはロシアからの天然ガス輸入を大幅に減らし、日本も代替供給源を探すなど、エネルギー市場におけるデカップリングが加速しました。
このような政治的な動きが、将来的に経済的なデカップリングを再び引き起こす可能性はあります。しかし、完全な分離は非現実的であり、今後は特定の分野や技術に限定された「選択的なデカップリング」が進むと考えられています。