日銀のETF売却は100年以上かかる?金融緩和の出口とデフレ脱却の真実
日本経済を長年悩ませてきたデフレ。日本銀行がデフレ脱却を目指して続けてきた大規模な金融緩和策は、私たちの生活にどのような影響を与えてきたのでしょうか。
ここ数日、「日銀のETF売却に100年以上かかる」というニュースが話題になりました。このニュースは、金融緩和の「出口」がどれほど困難かを物語っています。今回は、日銀の金融政策とデフレ脱却の道のりを、過去の経緯も踏まえて考えてみます。
なぜ日銀はETFを買ったのか?
日本銀行がETF(上場投資信託)を購入し始めたのは、リーマン・ショック後の2010年です。しかし、本格的に買い入れを拡大したのは、2013年に黒田東彦総裁が就任し、「異次元緩和」を始めたときでした。
その主な目的は、デフレからの脱却です。日銀がETFを買い入れることで、世の中に出回るお金の量(マネタリーベース)を増やし、経済活動を刺激しようとしました。また、継続的な買い手となることで、株価の急落を防ぎ、市場に安心感を与える狙いもありました。
この政策は、長引くデフレから日本経済を救うための、大胆かつ異例な試みでした。
短期的な景気対策が残した「100年」の課題
日銀のETF買い入れは、本格的な拡大が始まった2013年から、事実上の新規買い入れが終了した2024年まで約11年間続きました。
この短い期間の景気対策は、株価を押し上げ、雇用情勢を改善させるなど、短期的な効果を生み出しました。しかし、その代償として、将来にわたる大きな課題を残しています。
日銀は日本株式市場の最大級の保有者となり、特定のETFでは保有比率が50%を超えるものもありました。これにより、株価が市場の本来の力で決まるという原則が歪められたとの指摘があります。
また、日銀が保有する巨額のETFを一度に売却すれば、株式市場に大きな混乱を引き起こす可能性があります。 日本銀行が保有しているETFの購入額は、簿価ベースで約37兆円です。日銀のETFポートフォリオは、購入後も株価の上昇により価値が増しており、時価は約60兆円を超える規模と推計されています。 日本取引所グループ(JPX)の公表データによると、2025年9月19日時点の東京証券取引所プライム市場の時価総額は、約1,071兆円です。 単純に割り算すると、60÷1071=5.6%、今後100年間でトータル、5.6%のETFが割安に購入できることになります。
そのため、日銀は市場への影響を最小限に抑えるため、非常に緩やかなペースでの売却を余儀なくされており、その期間が100年以上かかるという試算につながっています。(私は資産・知識がないのでできませんが、儲けたい方にはポイントでしょう。億単位の資産を持っている方にとって、日銀ETF売却のタイミングは割安に購入できる好機です。短期的な経済対策の結果、またピケティの理論による格差拡大が広がるような気もします。資産があればあるほど、割安なETFを多く購入できます)
この「100年以上」という数字は、短期的な景気対策として導入された政策が、その規模ゆえに、将来の世代にわたる長期的な課題となったことを物語っています。
複利効果の負の側面(ボラティリティ・ドラッグ)
極端な思考であり、実際とは異なるかもしれませんが、仮に日銀が日本株式のTOPIXのETFの50%を購入したとします。 そうすると値動きはどうなるでしょうか?正確な表現かどうか分かりませんが、日銀がETFの50%を保有していた場合、市場供給量は半分になります。 ということは、値動きはレバレッジ2倍に近いものになりませんか?素人考えですが、どうなのでしょうか。 レバレッジ商品が商品設計としてそうなっているのと、市場供給量が減り、流動性が減少するという点は違います。 しかし、結果として、似たような「大きな値動き」をもたらすかもしれない、という点では共通しています。
レバレッジ商品には構造的な欠陥があります。レバレッジ型の商品は、日々の騰落率に一定の倍数をかけて連動するように設計されています。(そのため、今回の日銀のETFによる市場動向とは原理的には異なります。)
例えば、ある指数が「1日目:10%上昇、2日目:10%下落」を繰り返したとします。
指数(レバレッジなし):
- 100 → 110(+10%) → 99(-10%)
- 2日後、元の水準(100)より1%下落しています。
レバレッジ2倍商品:
- 100 → 120(+20%) → 96(-20%)
- 2日後、元の水準(100)より4%も下落しています。
このように、相場が上昇と下落を繰り返す(レンジ相場)だけでも、レバレッジ商品は元の指数よりも大きく下落していくという現象が起こります。これを「ボラティリティ・ドラッグ(Volatility Drag)」や「減価」と呼びます。
このため、レバレッジ型商品は、長期的に見ると元の指数から乖離し、パフォーマンスが劣後していく傾向があります。これは、日々の値動きに倍数がかかるという仕組みがもたらす構造的な問題です。
短期的な景気対策は、これに似た効果をもたらさないのか、今回は短期的な景気対策を10年以上も続けてしまいました。私が専門家ではないため間違っている可能性も高いですが、懸念したことを書いてみました。
日銀の狙い通り、デフレは解消できたのか?
大規模な金融緩和は、株価を押し上げ、雇用情勢を改善させるなど、一定の成果を上げました。特に2022年以降は、消費者物価指数(CPI)が日銀の目標である2%を上回り、数字の上ではデフレ脱却が実現したかに見えます。
しかし、この物価上昇は、金融緩和による円安や原油価格の高騰など、海外の要因に大きく依存していました。日銀が目指していた「賃金の上昇を伴う内需主導の物価上昇」という理想の形には、なかなか到達できませんでした。
ここで、金融政策だけでは解決できない根深い問題が浮き彫りになります。いくらお金を市場に供給しても、私たちの給料が上がらなければ、消費は伸びません。
最低賃金上昇がデフレを終わらせた?
そこで重要な役割を果たしたのは実は、最低賃金の上昇だったのではないでしょうか。
最低賃金は、金融政策のように市場全体に間接的に働きかけるのではなく、働く人々の所得を直接的に引き上げる効果があります。所得が増えた人々がより多くお金を使うことで、消費が活発化しました。また、最低賃金が引き上げられると、他の企業の賃金にも上昇圧力がかかります。
近年の記録的な賃上げは、深刻な人手不足や政府の賃上げ要請も背景にありますが、最低賃金の上昇もその強力な後押しとなりました。
最低賃金は誰がどうやって決めるの?
最低賃金は、私たちの生活に直接影響を与える重要なものです。その金額は、最終的に都道府県労働局長によって決定されます。しかし、その決定は、複数の段階を経て公正に行われます。
まず、厚生労働省に設置されている中央最低賃金審議会が、全国の経済情勢や物価動向を考慮し、各都道府県の最低賃金引き上げ額の「目安」を提示します。この審議会は、労働者、使用者、そして中立的な立場である公益の代表者で構成されています。
次に、各都道府県にある地方最低賃金審議会が、中央の目安を参考にしながら、その地域の賃金水準や企業の支払い能力などを詳細に議論します。 地方審議会の答申を受け、都道府県労働局長が最終的な最低賃金を決し、官報で公示することで効力が発生します。
日銀でなく、厚生労働省が所管する最低賃金の決定、これが経済に大きな影響を与えている。私たちは最近この点に気が付いたのではないでしょうか。
金融政策と賃金政策の連携が重要
デフレ脱却は、日銀の金融緩和策だけでは成し遂げられませんでした。市場にお金を供給する金融政策と、所得を直接引き上げる賃金政策が組み合わさることで、ようやく物価と賃金の好循環が生まれ始めました。
しかし、短期的な景気回復のために、今後100年以上も将来に禍根を残すという課題が発生し、しかも、そのETF購入のデフレ脱却への効果は限定的でした。
日銀が金融緩和の「出口」に舵を切る今、私たちは、これまでの政策が日本経済に何をもたらし、これから何が必要なのかを考える必要があります。
最後に少し唐突ですが、今回のブログはいかがでしたでしょうか? 金融政策は専門的で難しいと思われがちですが、私たちの生活に深く関わっています。専門家ではない私ですが、今回の出来事に対して思うところを書いてみました。 このブログ記事が、少しでもその理解を深める助けになれば幸いです。