突発性難聴:退院して一週間、わずかな変化を感じる
約2週間にわたる入院治療を終え、ようやく自宅に戻ってから一週間が経ちました。 病院という静かで守られた空間から一歩外に出ると、想像もしなかった戸惑いと、身体の変化の連続です。
1. 入院中よりも「今」の方がきつい理由
入院中は、最強の火消し役であるステロイド剤を大量に点滴していました。 この薬には炎症を抑えるだけでなく、全身を「ブースト機能(戦闘モード)」にする働きがあります。当時は寝不足でも動けるような、ある種の「元気」がありました。
しかし、退院して体に残った薬がなくなり、そのブーストが切れた今、激しい反動が押し寄せています。
ステロイド離脱症状のだるさ
私たちの腎臓の上にある小さな臓器(副腎)では、生きていくために不可欠なホルモンが毎日作られています。入院中に外から大量補給したことで、この「自分の工場」が一時的に休業状態になってしまいました。 外からの補給(薬)は減ったのに、自分の工場はまだ再起動していない。この空白期間の倦怠感が、今の激しいだるさの正体です。
「フレイル(虚弱)」の代償
2週間ベッドの上で過ごした結果、筋力が驚くほど落ちていました。退院の開放感から少し歩いただけで、翌日はひどい筋肉痛。身体の重さを痛感する毎日です。
2. 突然の「しりもち」と、外歩きの緊張感
家の中で、なんでもないところでくるりと方向転換しようとした瞬間、ぱたんとしりもちをついてしまいました。
これにはショックを受けましたが、筋力低下だけでなく、左耳のダメージによる「平衡感覚の狂い」も関わっているのかもしれません。
おかげで、家の外を歩くのは非常に緊張します。段差や追い越していく自転車など、以前なら無意識に処理していた情報が、今の自分には警戒すべき対象になっています。
3. 小さな兆し:お風呂での「チリチリ」
聴力については、残念ながらまだ「劇的な改善」はありません。イヤホンで音楽を聴こうとしても、左側からは何も聞こえないままです。
しかし、お風呂の中で小さな、けれど確かな体験がありました。 風呂桶でお湯をかき混ぜたとき、水しぶきが跳ねる音が「チリチリ」と、かすかに左耳に響いたのです。
なぜ音楽は聞こえないのに「チリチリ」は聞こえるのか?
- 周波数の違い: イヤホンの音楽や人の声は中低音がメインですが、水の跳ねる音は非常に高い周波数成分を含んでいます。
- 内耳のダメージの偏り: 内耳(カタツムリのような形をした蝸牛)は、入り口に近いほど「高音」を感じ、奥に行くほど「低音」を感じる構造になっています。今は、入り口付近の神経が少しずつ活動を再開しているのかもしれません。
- イヤホンと生の音の差: イヤホンは電気信号ですが、お風呂では音が壁に反射し、耳全体に微細な振動として伝わります。この「振動の入り方」の違いが、反応を引き出した可能性があります。
妙に遠くの音が聞こえる
レストランで、今まで聞こえていたのかもしれませんが、認識していなかった「チリチリ」が聞こえます。見えない厨房からだったり、だいぶ離れた席の電子音だったりします。
聞こえない左耳からだけなんか音がするなと思ったら、かなり離れた場所で子供がゲームをやっていたりしました。
遠方の気配を察する特殊能力なんかも、こういうところから生まれるんですかね。
4. 退院後の「聞こえ」の変化と向き合う
「音楽が聞こえない」という現実はもどかしいものですが、この小さな変化をどう捉えるかが、これからの療養において大切だと感じています。
突発性難聴の回復は、ある日突然バチッとスイッチが入るというよりも、このように「特定の音だけが異様に響く」「ノイズっぽく聞こえ始める」といった、一見不完全な形から始まることが多いそうです。
小さな手応えを大切にしたい。その瞬間の驚きを、句に留めました。
療養の句
- 風呂場にて 跳ねる水音(みずおと) チリチリと
- 寒(かん)の風呂 跳ねる水音 チリチリと
- 寒の風呂 チリチリ撥ねて 線香花火
- 湯桶(ゆおけ)振る 水音(みずね)チリチリ ビーズはぜ
最後に
退院すればすぐに元通り、というわけにはいきませんが、小さな変化は確実に積み重なっています。 今は焦らず、自分の体がゆっくり再起動していくのを待とうと思います。