60歳からの年金戦略:退職金とiDeCoの出口戦略
前回の記事では、私の退職金受取方針について書きました。 「有期の年金部分は一時金で受け取って、退職所得控除をフル活用する。そして、第一年金はあえて『終身』という保険として残しておく」という結論でした。
今回はその一歩先、60歳から65歳までの「空白の5年間」をどう生き抜くかという、より具体的な出口戦略についてです。
60歳から64歳の基本戦略:キーワードは「扶養」
公的年金の受給が始まる65歳までの間、私は以下の方針で進めることにしました。
- 公的年金(国の年金): 原則通り65歳から受給。
- 退職金の終身年金: 60歳から受給開始(年間約30万円)。
- iDeCo: 60歳で受給開始。ここで問題:「一括」か「年金」か?
この狙いは、「別居している子供の健康保険の扶養家族になること」にあります。
iDeCo「一括」vs「年金」:税金だけで見れば「年金」が有利
私の場合、iDeCoの残高は約300万円。実は、純粋な節税メリットだけで選ぶなら「5年間の年金形式」が有利です。
- 年金形式: 毎年分割で受け取れば、公的年金等控除の枠内に収まるため、受取時の税金はほぼゼロになります。
- 一括受取: 私の退職所得控除の枠(非課税枠)をはみ出してしまうため、オーバーした分(の半額)に対して税金が発生します。
子供の健康保険を考慮しないのであれば、わざわざ税金を払って一括でもらう必要はありません。
私のiDeCoの残高はそんなにない
私、つまり企業年金(DB)がある会社員が、iDeCoに加入できるようになったのは2017年の法改正からです。
まだ10年も経っていないので、そこまで iDeCoの残高はありません。
しかし、私より後の世代では、もっともっと60歳時点での iDeCoのトータル残高が多くなるでしょう。ここで述べた「5年間の年金形式」が有利という話は、これからも有効な手法というわけではありません。
それでも「一括」を選ぶ:社会保険料という裏ボス
では、なぜ私は「損」に見える一括受取を選ぶのか。それは、税金よりもはるかに高額な「社会保険料」という裏ボスの存在があるからです。
iDeCoを年金形式で受け取ると、合計して、毎年の年金年収が約90万円ほどになります。 別居の場合、子供は私に対し、この収入を上回る金額を毎月仕送りし、それを証明し続けなければなりません。
※認定基準の詳細については、それぞれの会社の健康保険組合により異なります。
正直、子供と同居していれば、こんなに悩むことはありませんでした。「同居」という最強のカードさえあれば、もっとスムーズに扶養認定されます。
しかし、現実は「別居」です。 子供からの仕送り実績を毎月銀行振込で証明しなければならない「別居扶養」において、親の収入が高いことはそのまま子供の負担に直結します。
私の収入が終身年金の「約30万円(月2.5万円)」のみであれば、子供の仕送り証明のハードルは劇的に下がります。 「目先の税金を払ってでも、確実かつ安価に扶養の権利を買い、5年間の健康保険料をゼロにする」。 これが、税務上の正解をあえて外してでも取りに行きたい、私の「実利」重視の戦略です。
子供にはどんどん外に出て行ってほしい
少し話が飛びますが、私は子供には自活して自分で世帯を構えてほしいと考えています。
同居しているとどうしても昔からの親子関係の心地よさがありますが、親だっていつまでも生きているわけではありません。子供もいつまでも子という立場のまま、一生を終えることはないでしょう。親子とは世代が異なるもので、別々の時間軸があると思います。
もちろん、仕事を辞めたくなったり、悩んだときはいつでも帰ってこいと言いたいですが、困ってなければどんどん出ていけという立場です。
まとめ:自分だけの「心地よい着地点」
今回の出口戦略は、家族の形や資産状況、そして加入している健康保険組合のルールまで絡み合った、かなり私固有のケースの話です。
現役時代の「お金を貯めるフェーズ」では、新NISAやiDeCoなど、万人にとっての「正解」に近い手法が存在します。しかし、60歳以降の「お金を受け取るフェーズ」に入ると、一変して「自分のケースではどうなるか」という、唯一無二の判断を迫られる機会が増えてきます。
税金だけを見れば損に見える選択が、社会保険料まで含めたトータルコストでは正解になる。あるいは、数字上の得よりも、子供に余計な手間をかけさせないという「安心感」の方が価値を持つこともある。
人生の「出口」は、一回きりです。 誰かの正解をなぞるのではなく、制度のパズルを自分なりに組み合わせて、一番心地よく、納得できる「着地点」を探していく。その試行錯誤こそが、これから始まるリタイア生活の、最初で最大の自由なのかもしれません。