炭水化物の「重ね食べ」はなぜ美味しい?
先日、コンビニでふと手にしたヤマザキの焼きそばコロッケパン。
「パンに焼きそばとコロッケ?炭水化物が3つも入っているなんて…」と最初は少し驚きましたが、一口食べると、その組み合わせの妙に感心しました。
なぜ、私たちは炭水化物に炭水化物を重ねて食べる「重ね食べ」を、こんなにも美味しいと感じるのでしょうか?今回は、この「焼きそばコロッケパン」を例に、その理由を考察してみたいと思います。
保健師さんに「もってのほか」と叱られた話
実は先日、会社の健康指導で、この「焼きそばコロッケパン」の話をしたところ、担当の保健師さんに厳しく叱られてしまいました。
「炭水化物に炭水化物を重ねて食べるなんて、もってのほかです!血糖値が急激に上がって太りやすい、健康を意識する上では避けるべき食事です」
ごもっともなご指摘です。確かに、この組み合わせは健康志向とは真逆かもしれません。しかし、なぜ私は、保健師さんに「もってのほか」と叱られるような「重ね食べ」に、こんなにも惹かれてしまうのでしょうか?
「でも、おいしいよね」と心の中でつぶやいてしまう、その理由を考えてみました。
脳が「ご馳走」だと感じる理由
私たちの脳は、活動に必要なエネルギー源としてブドウ糖を最も効率よく利用します。そして、ブドウ糖は炭水化物が分解されて作られます。
焼きそばコロッケパンには、パン、焼きそば、コロッケと、3つの炭水化物がぎっしり詰まっています。
一口食べるごとに、脳は「こんなにたくさんのエネルギーが手に入った!」と認識し、快感や満足感を感じます。この「ご馳走感」が、私たちの食欲を強く刺激し、「美味しい!」という感覚を増幅させているのです。
異なる食感を楽しむ
「重ね食べ」の魅力は、単に炭水化物の量が増えることだけではありません。複数の異なる食感が口の中でリズムを生み出すことにあります。
- パン: ふんわりと柔らかい食感
- 焼きそば: ソースが絡んだ、モチモチとした食感
- コロッケ: サクッと香ばしい衣と、ホクホクしたじゃがいもの食感
この異なる3つの食感が、一口ごとに舌を楽しませてくれます。単調になりがちな炭水化物の組み合わせに、食べる楽しさを加えています。
味の濃淡を味わう
焼きそばコロッケパンが美味しいと感じるもう一つの理由は、それぞれの味の濃さが違う点です。
焼きそばは濃厚なソースの味がしっかりと染み込んでおり、パンは比較的味が薄く、コロッケはじゃがいもの自然な甘みと衣の塩味が中心です。
この味の濃淡が、口の中で絶妙なバランスを生み出します。味が濃い焼きそばがパンの味を引き立て、飽きることなく食べ進められます。
高校時代の「炭水化物トリプルセット」の思い出
高校生の頃、よく友人と行ったフードコートに、学生向けのユニークなセットメニューがありました。それは、なんとスパゲティとピザとご飯のセットです。スパゲティとピザを「おかず」にご飯を食べるというものでした。
他のメニューより割安な価格に設定されていて、ハンバーグなどより満足感はないものの、お金がないときに助かるメニューでした。
パスタにご飯や味噌汁が付いてくるスパゲティ定食も、一般的なレストランにはありませんが、大衆食堂や社員食堂など安価に食事を提供する店では見かけました。最近はあまり見ませんが、今でもあるのでしょうか。
日本と世界のユニークな「重ね食べ」文化
焼きそばコロッケパンは、単なるB級グルメではなく、日本のユニークな食文化を象徴する存在と言えるでしょう。
最近ではYouTubeで、チャーハンを「おかず」にご飯を食べるという動画を見かけました。一見すると奇妙な組み合わせですが、これもまた「重ね食べ」の面白い例です。ラーメンとご飯、うどんとおにぎりなど、日本には昔から炭水化物と炭水化物を組み合わせる「重ね食べ」の文化が根付いています。
いくつかの例を挙げてみましょう。
- いもご飯・栗ご飯:ご飯を炊く際に、サツマイモや栗といった炭水化物も一緒に加えます。これは、ご飯が貴重だった時代に、かさ増しをするための知恵でもありました。
- 山かけご飯:ご飯の上にすりおろした山芋をかける「山かけご飯」も、古くから親しまれている「重ね食べ」のひとつです。とろりとした山芋と、炊きたてのご飯の組み合わせは、食欲がないときでも食べやすく、独特の風味が食欲を刺激します。昔から病気療養中や夏バテで食欲がない時でも食べられる滋養食として知られていました。
- とろろそば: 蕎麦にすりおろした山芋を乗せることで、とろりとした食感が加わり、喉越しが良くなります。
- お好み焼き定食・焼きそば定食:お好み焼きや焼きそばを「おかず」としてご飯と一緒に食べるスタイルで、主に関西地方で親しまれています。
- ラーメンライス:ラーメンの濃厚なスープや具材の旨味がご飯にも絡み、さらに満足感を高めます。
- うどん・そばとおにぎり・稲荷寿司:麺だけでは物足りないときに、手軽に満腹感を得られる組み合わせです。
- コロッケ定食:コロッケを「おかず」としてご飯と一緒に食べるスタイル。揚げ物にはご飯が欠かせないという、日本独自の食文化が背景にあります。
- コロッケそば・うどん:蕎麦やうどんという麺類に、コロッケというじゃがいもを主成分とする炭水化物をトッピングする、これぞ重ね食べの極みです。
- 丼ものとそば・うどん:カツ丼や天丼、親子丼といった丼ものと、そばやうどんを組み合わせる、蕎麦屋やうどん屋ではおなじみのセットです。
和洋折衷の重ね食べ
海外から取り入れた料理を重ね食べにしてしまう。そんな日本ならではの「重ね食べ」文化もありますよね。
日本ならではの「ジャーマンポテト」文化
パンやピザの具材としても人気のジャーマンポテト。実は、この「ジャーマンポテト」という名前の料理はドイツには存在しません。ドイツで似た料理は「ブラートカルトッフェルン(Bratkartoffeln)」と呼ばれ、じゃがいもとベーコン、玉ねぎを炒めたものです。この料理が日本に伝わり、「ジャーマンポテト」という名前で定着しました。
この「日本独自のジャーマンポテト」をさらにアレンジした、ジャーマンポテトピザやジャーマンポテトパンは、日本ならではの「重ね食べ」文化の産物と言えるでしょう。
ポテトサラダをはさんだトーストも同じ?
焼きそばコロッケパンだけでなく、喫茶店の定番メニューであるポテトサラダをはさんだトーストも、炭水化物の重ね食べの好例と言えます。
ポテトサラダの起源には諸説ありますが、最も有力な説は19世紀のロシアで生まれた「オリヴィエ・サラダ」です。マッシュしたジャガイモに鶏肉やピクルスなどを加え、マヨネーズで和えた高級料理でした。その後、世界各国に広まり、日本でも独自にアレンジされ、現在の形になりました。
それをさらにパンと組み合わせるわけですが、これもまた絶妙な食感と味のハーモニーを生み出します。
- トースト: こんがりと焼かれたサクサク、カリカリとした食感。
- ポテトサラダ: なめらかでホクホクしたじゃがいも、そしてマヨネーズのコクが加わった柔らかな食感。
熱くてカリッとしたトーストと、ひんやりと冷たいポテトサラダの組み合わせは、まさに「重ね食べ」の醍醐味です。熱々の天ぷらに冷たい蕎麦という日本的な組み合わせを彷彿とさせます。
ポテトサラダに含まれるきゅうりや玉ねぎのシャキシャキ感も、食感のアクセントとなり、食べる楽しさを増幅させています。これは、揚げ物とキャベツの千切りのように、食事にアクセントを加える役割を果たしています。
ポテサラ丼、マカロニサラダ丼
ここまでくると悪食と言われるかもしれませんが、ポテサラ丼、マカロニサラダ丼もおいしいですよね。特に炊き立てご飯だと最高です。 温かいご飯に冷たいポテサラやマカロニサラダを乗せる。味が足りないようなら、私はマヨネーズ、醤油やカレーパウダー、コショウを足すこともあります。
コーンピザ、コーンパン
コーンピザやコーンパンも、日本で広く親しまれている「重ね食べ」の好例です。コーンのプチプチとした食感と、濃厚なチーズやマヨネーズ、そして柔らかいパン生地との組み合わせは、老若男女問わず人気です。コーンピザに、さらにフライドポテトをサンドして食べると最高ですね。サイゼリヤやガストで手軽に楽しめます。
焼きビーフンとご飯(米と米)
ソース焼きそば以外の、色々なアジアの麺類もおかずになりますね。良く親しまれているのが焼きビーフンです。
焼きビーフンは、中華料理の炒麺(チャオメン)という麺料理がルーツと言われています。炒麺は、小麦粉を原料とする麺を炒めて作る料理ですが、焼きビーフンは米粉を原料とするビーフン麺を使用します。日本では、この焼きビーフンを、ご飯と一緒に食べることがあります。焼きビーフンは、全国的に親しまれていますが、特に西日本、中でも九州地方で個人消費量が多いとされています。ケンミン食品のウェブサイトによると、九州地方では関東地方の約2倍の量が消費されているとのことです。米粉から作られたビーフンと、炊きたてのご飯という異なる米の食感と風味を楽しめます。
世界のユニークな「重ね食べ」文化
実は、日本だけでなく、世界にも炭水化物を重ねて食べるユニークな文化があります。
- イギリス:チップ・バティ (Chip Butty):パンにフライドポテトを挟んだサンドイッチ。パンとジャガイモの組み合わせです。
- ベルギー:ミトライエット (Mitraillette):バゲットに肉、フライドポテト、ソースをたっぷりかけていただきます。これもパンとジャガイモの組み合わせです。
- メキシコ:ブリトー (Burrito):トルティーヤ(トウモロコシ粉や小麦粉で作る薄焼きパン)にご飯と豆を詰めて巻いた料理。トルティーヤと米という炭水化物を重ねています。
- エジプト:コシャリ (Koshari):マカロニ、米、レンズ豆、ひよこ豆を混ぜ合わせた国民食。複数の炭水化物が一皿に集まっています。
- イタリア:ポテトピザ(Pizza con Patate):スライスした薄いじゃがいもを、オリーブオイルとローズマリーでシンプルに味付けしたピザです。日本の「ジャーマンポテトピザ」とは異なり、チーズを使わないこともある素朴な味わいが特徴です。
- アメリカ:フライドポテトピザ:ピザの上にフライドポテトをトッピングしたもので、アメリカや他の国でも見られます。ピザとフライドポテトという組み合わせも、炭水化物の「重ね食べ」の典型的な例と言えるでしょう。
これらは単に満腹感を得るための知恵だけでなく、味や食感の相乗効果を楽しむ、それぞれの国ならではの「食の工夫」と言えるのではないでしょうか。
焼きそばコロッケパンを食べる際は、保健師さんの指導はひとまず忘れて、ただ美味しいだけでなく、脳が喜ぶ感覚、口の中で広がる食感、そして世界の食文化に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。