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60歳からの投資戦略:取り崩し戦略の振り返りと超長寿120歳への備え(再整理編)

60歳からの投資戦略:取り崩し戦略の振り返りと超長寿120歳への備え(再整理編)

これまで、私のリタイア後の取り崩し戦略「オルカン100% + 現金10年分」の実践について考えてきました。

今回は、世の中で語られている資産の山を下るためのルール、すなわちデキュムレーション(Decumulation:資産取り崩し)の諸戦略を整理し、私の戦略の立ち位置を再確認します。

基本的な考え方、定番の手法

  • 定額取り崩し (Fixed-Dollar Withdrawal)
    • 概要: 相場に関わらず、毎月「20万円」のように一定額を機械的に売却する。
    • メリット: 家計管理が極めてシンプルになり、収支の予測が立てやすい。
    • デメリット: 資産価格が下がっている時にも同じ額を売るため、資産が急激に枯渇する「収益率配列のリスク(Sequence of Returns Risk)」に最も弱い。
  • 定率取り崩し (Fixed-Percentage Withdrawal)
    • 概要: 毎年、資産残高の一定比率(例:4%)を売却する。※1994年にウィリアム・ベンゲンが発表し、後の「トリニティ・スタディ(Trinity Study)」で理論的根拠が補強された「4%ルール」に端を発するが、トリニティ・スタディとは若干異なる模様。
    • メリット: 残高に連動するため、理論上は資産が一生尽きない。
    • デメリット: 暴落時に受け取れる「生活費の実額」が減るため、人生設計の柔軟性が損なわれる。
  • ラダー戦略 (Ladder Strategy)
    • 概要: 古くからフィナンシャル・アドバイザーが推奨する安全策。定期預金や満期が異なる債券を「梯子」のように並べて保有し、毎年満期が来た分を生活費に充てる。
    • メリット: 毎年の受取額が確定しており、株式市場の暴落に左右されない。
    • デメリット: 常に「数年〜10年分」の多額の資金を低利回りの資産に拘束することになり、高リスク資産の比率が低くなり、機会損失というコストを払う。

【補足】「トリニティ・スタディ」と「定率取り崩し」の違い

ここで少し補足ですが、「トリニティ・スタディ」と「定率取り崩し」は、微妙に異なるようです。

  • トリニティ・スタディ(定額+インフレ調整)
    • 方法: 初年度に資産の4%を取り崩し、2年目以降は「その初年度の金額」を物価変動率に合わせて上下させる。
    • 特徴: 資産残高に関わらず「生活費」を維持することを優先した、実質的な定額取り崩し。
  • 定率取り崩し(残高連動)
    • 方法: 毎年、その時の資産残高の一定比率(例:4%)を取り崩す。
    • 特徴: 資産が減れば生活費も減るが、理論上、資産が一生尽きない。

定率取り崩しの場合、資産が20%減れば、翌年の生活費も20%減らすという、極めてシビアな「市場連動型」の生活になります。トリニティ・スタディのほうは物価上昇時、取り崩し額は多くなります。

応用的な考え方、現代のトレンド

※一般的と思われるネーミングにしたつもりですが、広く通じる用語ではない場合があります

  • ガードレール戦略 (Guardrail Strategy)
    • 概要: 2006年にジョナサン・ガイトンとウィリアム・クリンガーが提唱。定率取り崩しをベースに、「資産が増えたら取り崩し率を上げ、減ったら下げる」という上下限(ガードレール)を設ける。
    • メリット: 数学的合理性と生活の安定を高度に両立。資産の「残しすぎ」も「使い切りすぎ」も防ぐ。
    • デメリット: 支出額を頻繁に計算・調整する手間がかかり、運用のメンテナンスコストが高い。
  • 現金クッション/バケツ (Cash Cushion / Bucket)
    • 概要: 1985年にハロルド・エヴァンスキーが提唱した「バケツ戦略 (Bucket Strategy)」に由来。暴落時にリスク資産を売らずに済むよう、数年分の生活費を「現金」で確保しておく。
    • メリット: 「あと10年は売らなくていい」という圧倒的な心理的優位性を確保でき、暴落時でもリスク資産の回復を待てる。
    • デメリット: ラダー戦略と同様、多額の現金を寝かせておくことで高リスク資産の比率が低くなり、上昇相場における成長の恩恵を逃す「機会損失」のコストを払う。
  • 動的引き出し (Dynamic Withdrawal)
    • 概要: 近年のFPにおけるトレンド。仕組みに任せきりにせず、相場の「豊作」や自身の健康状態、やりたいことに合わせて、その都度「意志」を持って引き出し額を決める。
    • メリット: 「今しかできない経験」にリソースを集中投下でき、人生の満足度が高い。
    • デメリット: 常に自分自身の判断が求められるため、完全に自動化したい人には向かない。 規律のベースやルールが不明確。
  • DIE WITH ZERO (死ぬ時にゼロ)
    • 概要: 2020年にビル・パーキンスが提唱。70代、80代と体力が衰えてからではなく、体力・時間のある若いうちに、お金を経験に費やすことを重視する出口哲学。
    • メリット: お金を最も価値ある「思い出」に変えられる時期を逃さない。
    • デメリット: 寿命の予測が難しいため、実行には「予備のバッファ」の緻密な設計が必要(長生きリスクへの対応)。

デキュムレーション戦略の比較表(AI作成)

戦略名 資産の寿命 支出の安定性 期待リターン 暴落時のストレス 特徴・向いている人
定額取り崩し 家計管理を楽にしたい人
定率取り崩し シンプルなルールで資産の「運用効率」を極めたい人
トリニティ 生活水準の維持を優先する人
ラダー(梯子) 数年分の現金を計画的に使いたい人
ガードレール 状況に合わせて柔軟に最適化したい人
現金バケツ ❌ (機会損失) 市場の変動に左右されず、平穏に暮らしたい人
動的引き出し 人生の「旬」に合わせて資金を投じたい人
DIE WITH ZERO お金を最高の「思い出」に変換したい人

寿命はどのくらいを想定する?

出口戦略を語る上で避けて通れないのが、「何歳まで生きるか」という生存期間の想定(パラメーター設定)です。

  • 統計上の平均と現実: 現在、日本人の平均寿命は男性が約81歳、女性が約87歳です。しかし、これらはあくまで「平均」であり、実際には90歳、100歳を超えるケースは珍しくありません。世界最高齢の記録は122歳(ジャンヌ・カルマン氏)であり、生物学的な限界点もそのあたりにあると言われています。
  • ブラックスワンとしての120歳: 統計的なボリュームゾーンを外れた(いわゆるロングテール)としても、投資家として警戒すべきは「ブラックスワン(想定外の事象)」としての超長寿です。医療技術の進展も考えれば、120歳まで生きる可能性をゼロと切り捨てるのはリスク管理上、賢明ではありません。
  • 自律不能な時期の「20年バケツ」: 仮に100歳まで生存した場合、もはや自分自身でPCを操作して資産運用を続けたり、複雑な家計管理を行ったりすることは困難かもしれません。その段階で「あと20年分の生活費」をカバーする現金バケツが手元にあれば、特に日本の場合、公的年金制度と合わせて、相場変動や判断能力の低下に怯えることなく、残りの人生を安定して送ることを期待できます。(100歳代からの20年分は、60代の10年分と比べても、少なくてもいいぐらいでしょう。)
  • 資産から人的サポートへ: 超長寿のリスクは「お金」だけでは解決できません。自律的な生活ができなくなった段階では、資産の管理や生活の維持を担う「家族」「後見人」などの人的サポート体制の準備が不可欠です。出口戦略の最終フェーズは、デジタルな数字の管理から、アナログな信頼関係の構築へとシフトしていきます。

最後に

どの理論がアカデミックに正しいかを検証するのは困難です。医療の世界でも、救えるかもしれない技術があるのに、それを患者に適用するかしないか、比較対象実験を行うことは難しいでしょう。

同じように、私たちの出口は一回きりであり、何回も検証することはできません。ちょっと暗い言い方かもしれませんが、「取り崩し」「出口戦略」とは私たちが死へと至るプロセスに違いありません。

私の場合は、オルカン100%と10年分の現金バケツ、動的引き出しやDIE WITH ZEROも参考にしていますが、使い切りは目指していません。 寿命の予測が難しいため、現金バケツは最後まで維持する予定です。

戦略という仕組みで守りを固め、「人生への企み(意図)」で攻めを加速させる。 この連載が、皆さんの「人生の出口戦略」の参考になれば幸いです。